象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

小日向定次郎『ダンティ・ロゼッティの研究(地上の愛より天上の契りへ)』

大正14年に出た本で、小日向の本としては容易に手に入るものの一つ。"The Blessed Damozel" "The Staff and Scrip" "Sister Helen" の三篇の詩を訳出、解題している。The Blessed Damozel はドビュッシーの名曲 La Damoiselle Elue のもとになった作品で、作…

石川淳『おまへの敵はおまへだ』

だいぶ前に読みかけて、その台詞廻しのあまりのわざとらしさに辟易し、ずっと積読になっていたもの。それを今回わざわざ取り出して読んでみたのは、このところ古い日本の映画をずっと見てきて、その雰囲気の延長線上にあると思しいこの作品のことがふと頭に…

葉巻と南国の匂い

パイプ、手巻きと進んできたら、次に手を出すべきは葉巻(シガー)だ。これまではその見た目や価格からあまり惹かれることのなかった葉巻だが、やはり喫煙者としてはこれも押さえておく必要があるだろう。というわけで、フィリピン産のエクスプローラーと、…

煙草雑感

今回喫煙を再開してみて気づいたのは、公の場所で煙草を吸えるところがほとんどなくなっていることだ。6年前はこうではなかった。分煙は進んでいたけれどもまだまだ煙草を吸える場所はあった。それが今では……私の場合、落ち着いて煙草を吸える場所といえば車…

ニコチン姫とパイプ嬢

最近ちょっとしたことから5年間の禁煙を打ち切って喫煙者に復帰した。といっても、シガレットに戻るつもりはなく、パイプと手巻き限定だが。シガレットは、よくいわれているように添加物満載で、これが重度の依存症を齎すようなのだ。それは私も身に沁みて知…

生田耕作と象徴主義

生田耕作といえば世間ではシュルレアリスムの研究者として知られている。たしかに彼の訳したブルトンの「第一宣言」はすばらしい。まるでブルトンの霊が生田に憑依して筆記させたかのようだ。しかし私が本当に生田をすごいと思ったのは、『ヴァテック』に寄…

パイプについて

最近本格的にパイプ喫煙を復活させてみたが、なるほどこれは老人ならではの趣味だな、と思った。というのも、まずパイプというのは若い者には絵的に似合わない。それにパイプ喫煙特有のゆるさは、若者の求めるガツンとくる刺戟からは程遠い。またコレクショ…

ふたつの『イット』

「アール・デコ文学双書」の第二回配本『イット』(エリナ・グリン 松本恵子訳)を読む。「イット」の持主である男女(男は無一文から身を起こした実業家、女は没落貴族の令嬢)の恋愛をめぐる心理的駆け引きを中心にした物語。風俗はいちおう1920年代のそれ…

ドビュッシー『ペレアスとメリザンド』

音楽における象徴主義というのはどうも捉えどころがない。他のジャンルであれば、たとえば文学ならマラルメ、美術ならクノップフ、というように、なんとなく象徴主義の代表のようなものが思う浮ぶけれども、音楽となるとなかなかこれというのがない。いや、…

アニタ・ルース『殿方は金髪がお好き』

象徴派の時代に続くのがアール・ヌーヴォーで、それの発展形としてアール・デコというものが考えられ、同時にその中心地はヨーロッパからアメリカへ移る。その後のアメリカ文化はジャズからポップカルチャーへと進むことになるだろう。いっぽうヨーロッパで…

芥川龍之介と象徴主義

先日、初めて閃輝暗点なるものを体験した。視界の端にギザギザの円が見える現象だが、それで思い出したのは、作家の芥川龍之介が短篇「歯車」のなかで、この現象を描いていることだ。彼にとって閃輝暗点はたんなる病理的現象ではなく、「死」を暗示する予兆…

映画漬けの一ヶ月

前回言及した、グラフィック連作の流れを汲む映画*1を少し見てみようと思って動画サイドを漁っていたら、意外にもおもしろいものがいっぱい出てきて、この12月は私にとって映画月間となった。こんな映画漬けの日々を送ったのは久しぶりのことだ。以下に、こ…

ハンス・H・ホーフシュテッター『象徴主義と世紀末芸術』

1965年に原著が、1970年に訳書が出たもの(種村季弘訳、美術出版社)。訳者のあとがきによれば、当時は日本でもアール・ヌーヴォーがちょっとした流行だったらしい。著者のホーフシュテッターはアール・ヌーヴォーの研究家でもあるので、本書でもそっち方面…

モーリス・セーヴと象徴主義

辰野隆の『信天翁の眼玉』の最後の方に次のような記述がある。「凡そ文学に於て自覚的に、徹底的に象徴に拠ったのは、恐らくダンテであるだろう。而して仏蘭西に於ては先ず、十六世紀に於けるリヨン派の詩人モオリス・セエヴをその鼻祖とする。彼の詩集『デ…

矢野目源一と象徴主義

この一風変った文筆家は若年の私をひどく悩ました。なにしろその全貌がわからない。こちらから見えるのはその指先や爪先だけなのだ。どこか全集を出してくれる本屋はないものか、とひそかに思っていた。ところが、吉行淳之介の「七変化の奇人」を読み、太宰…

映画における象徴主義

二十世紀中葉における象徴主義のスポークスマンであるホーフシュテッターは、「サンボリスムは現代のまっただなかに屹立している」と高らかに宣言している。そしてサンボリスム精神の現代における正統的な継承者として映画をあげている。これは私としても同…

種村季弘と象徴派

ホーフシュテッターの翻訳者である種村季弘は、映画評論の分野でも活躍した。ところでそのホーフシュテッターは、象徴派の未来を映画のなかに見出している。そういう事情があるので、種村季弘にはもしかしたらホーフシュテッターの理論を応用した、象徴派の…

石川淳と象徴派

石川淳という作家は、はたして今でも読まれているのだろうか、という思いが頭をよぎる。どうも底が浅くて、すぐに飽きがくるような気がするのだ。本人はいっぱし文学の玄人のつもりで、文体もすばらしいが、かんじんの中身がすかすかなのである。しかし、そ…

アドレ・フルーペットの頽唐詩集『レ・デリケサンス』

ガブリエル・ヴィケールとアンリ・ボークレールとの共著で、1885年に出たもの。1885年といえば、前年にユイスマンスの『さかしま』が出て、象徴派や頽唐派への関心が高まりつつあった時期で、この『レ・デリケサンス』もそういう流れにのった本として、けっ…

厨川白村によるレルベルグの紹介

このブログと並行して細々と続けているレルベルグの翻訳だが、今回の詩篇は自分で訳さずに厨川白村の訳詩を借りることにした。というのも、彼が「詩人ヴァン・レルベルグ」(『小泉先生そのほか』所収)で初めて日本にレルベルグを紹介したときに、この詩を…

篠田一士、諸井誠『世紀末芸術と音楽』

1983年に出た往復書簡集(音楽之友社)。けっこうおもしろかったので、ネットにレヴューはあがっていないかな、と思って調べてみたが、この本に言及した記事は見当らなかった。考えてみれば、1980年くらいから、「世紀末」という文字が一種の流行語のように…

アルバン・ベルク『ルル』

これは、ある人々によれば、二十世紀最高のオペラらしい。そういうものに出会えただけでも、ヴェデキントの戯曲を読んだ価値はあった。 主役のクリスティーネ・シェーファーは、シェーンベルクの歌曲などでは「知的なリリックソプラノ」という感じだったが、…

パプスト『パンドラの箱』

1928年のサイレント映画。この一作で、ルイーズ・ブルックスは映画史上にその名をとどめることになる。 www.youtube.com じっさいのところ、この映画もまたそれなりに忠実に原作を追っているけれども、なんといってもヴェデキントの戯曲が、およそ劇的なおも…

ヴァレリアン・ボロフチク『ルル』

思いがけず袋小路のようになっている「ルル」関連のあれやこれやだが、あまりこういうことにかかずらっているといつまでたっても埒が明かないので、気になるものだけさっさと片付けるとしよう。ボロフチクは私のお気に入りの映画作家で、彼に「ルル」を映画…

山口昌男によるブルックス復興の第一声

大岡昇平によれば、山口昌男が1975年に「朝日新聞」に出した小文が、ルイーズ・ブルックス復興の「戦後の第一声」である。その小文はのちに「スクリーンの中の文化英雄たち」という本に、「女性──この『存在論的他者』」という題のもとに収められた。この小…

大岡昇平『ルイズ・ブルックスと「ルル」』

1984年に出た大判の本(中央公論社)。ブルックスと大岡昇平との取り合せはちょっと奇異の感を与えるが、彼は学生のころ京都で『パンドラの箱』を見て、ブルックスの魅力に参ってしまったらしい。それが昭和5年(1930年)のことで、それからほぼ半世紀後の19…

F. ヴェデキント『地霊・パンドラの箱 -- ルル二部作 -- 』

岩淵達治訳の岩波文庫。この作品のふしぎな魅力がどこからくるかといえば、それはおそらくポルノグラフィックということでけりがつくのではないかと思う。ポルノに特徴的な、背徳と官能と残酷とが、この戯曲にはふんだんに見出せるのだ。そしてもうひとつの…

池内紀編訳『ウィーン世紀末文学選』

本書にいわゆる「世紀末」とは、1890年代からナチスドイツによるオーストリア併合(1938年)までを想定しているらしいが、これはちょっと下限を長く取りすぎているような気がする。そのせいかどうか、収録作品の選択もどこか散漫な感じで、全体として焦点が…

素木しづ子と象徴主義小説

筑摩の古い全集本で「大正小説集」というのを読んでいて、ちょっと引っかかったのが素木しづ子という女流作家だ。いっときは樋口一葉の再来とまでいわれたらしいが、24歳で夭折した。「大正小説集」に収められているのは「三十三の死」という作品で、そこに…

二葉亭四迷と象徴主義

ちょっとしたきっかけで、二葉亭四迷の全集を買ってしまった。新書版で二段組、全九巻という、省スペースのもの。まだ目次をぱらぱら見た程度だが、じつにおもしろそうな作品が並んでいる。こういうものに今まで注意してこなかったのは迂闊だった。さて、目…