中村隆夫『象徴主義と世紀末世界』
今年(2019年)の8月に出たばかりの本だが、完全な新著というわけではなくて、根幹をなす部分は1998年に出た『象徴主義 モダニズムへの警鐘』をそのまま使ってある。第I部の10章と11章とが、新たに付け加えられた部分で、ページ数でいえば60ページ余り。以下にざっと内容をメモしておく。
1-1
第三共和制は、フランス革命の理想がほぼ実現された時代である。
1-2
フランスの第三共和制はブルジョワの時代であり、印象派の時代である。
1-3
印象派は、19世紀後半の明るい側面、つまり昼の精神を代表している。
2
1886年は象徴主義にとって記念すべき年である。一例、モレアスの「象徴主義宣言」。
3
夜の精神としての象徴主義。現実的合理性への嫌悪と、神秘的世界への憧憬。
4
メランコリーは象徴派の鍵概念。
5
超越的なものへの憧憬と、それがつねには叶えられずに陥る絶望と。
6
恐怖と魅惑の根源としての死。
7
超越への契機としてのエロティシズム。
8
サロメとスフィンクスに代表される、世紀末を支配した宿命の女たち。
10-1
19世紀フランスには多数のオカルティストが輩出したこと。
10-2
隠秘学の目的は魂の救済である。
10-3
エリファス・レヴィについて。
10-4
オカルティストとしてのヴィクトル・ユゴー。
10-5
明晰な狂人ジェラール・ド・ネルヴァルの、オカルティストとしての圧倒的な力量。
10-6
ジョゼファン・ペラダン
10-7
スタニスラス・ド・ガイタ
10-8
世紀末の薔薇戦争、ペラダン対ガイタ。
10-9
ブーラン神父をめぐる確執。オカルティストたちの「呪い合戦」。
10-10
エリック・サティと薔薇十字展。
10-11
アンドロギュヌスを「至高の一者」と同定すること。
10-12
薔薇十字展の成功と衰退。
11-1
ブリュージュとベルギー象徴派。
11-2
忘れられた偉人ペラダンの復活はなるか?
11-3
救済の象徴としてのアンドロギュヌス。
11-4
宿命の女としてのスフィンクス。
11-5
一種の先駆者としてのテオフィル・ゴーティエと、彼の絵(「ジゼル」)。
11-6
偉大な先駆者としてのエドガー・ポーと、彼の絵(ヴァージニアの肖像)。
- 第II部、世紀末都市ウィーンとエロティシズム
1
1867年、オーストリア=ハンガリー二重帝国成立、その首都のウィーン。
3
エロティシズムの酵母としてのウィーン文化。
5
呪われた芸術家たち、シーレ、ココシュカ、ゲルストル。
6
反ユダヤ主義の嵐と、第二次大戦後のウィーン幻想派への布石。
- おわりに
こうしてみると、じつに魅力的なテーマが扱われていることがわかるが、記述は表面的で、突っ込んだ考察はなされていない。全体的に案内書という性格がつよく、かつ美術方面に力点がおかれているので、ここに紹介された画像などを手掛かりに、めいめいがさらなる探求に乗り出せばいいと思う。