象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

窪田般彌『日本の象徴詩人』


1963年(昭和38年)に紀伊国屋新書で出たもの。

本書で扱われているのは、上田敏蒲原有明北原白秋三木露風三富朽葉萩原朔太郎日夏耿之介小林秀雄、吉田一穂の九人。ところで、これらのうち、フランスのサンボリスム精神に忠実な、真の意味での象徴詩人が一人もいないのである。いずれも本来のサンボリスムから、さまざまな制約によって逸れて行った人々ばかりだ。私は本書を読んで、ある詩人をうかつに象徴派と呼ぶのは危険だし、世に象徴詩といわれているものも、たいていはサンボリスムとは何の関係もない、ということをおぼろげながら悟った。

つまり、日本象徴派なるものは、フランスの本家とは根本的な理念すら共有していない、きわめて独自なものであった、というのが私が本書から受けた印象だ。

まあそうだろうな、と思う。そして、それだからこそ、日本象徴派はおもしろいのである。根本的な誤解の上に成り立った、日本的歪曲の産物であるところに、私は倒錯したオリジナリティを見出すのだ。こうした一群の人々を、日本的な「象徴の森」の散策者に見立てるのは私の趣味にも合う。

というわけで、とりあえずは有明、白秋あたりから攻めてみたい。本はかなり買いこんであるので、すぐにでも手が付けられる。