象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

悪魔とオナニズム


1996年から1997年にかけて開催された「ベルギー象徴主義の巨匠展」の図録を眺めていたら、フェリシアン・ロップスにかなりのページが割かれているのに気がついた。

ロップスは、日本でもまとまった画集が出ているくらいで、わりあい人気がある画家だと思うが、私はあまり好きではなかった。なんというか、かれの絵はどれもひどく汚らしく見えるのだ。もし彼の絵に美があるとしても、それは「醜の美学」に支配されたものだろう。『マクベス』の魔女のセリフにあるような、「美に醜を、醜に美を」見出す倒錯的な感性にのみ、かれの絵は訴えかけるものをもっているといえる。

さて、本図録に収められた『悪魔』と題された連作のなかに、「怪物を生む悪魔」というのがあって、翼を拡げたサタンの足元に、なにやら液体のようなものが飛び散っている。絵が小さくてよくわからないので、ネットで画像検索してみたら、それは悪魔の精液で、怪物の創造はオナニーによるものであることがわかった。



この絵にはご丁寧にもサタンの陰茎や陰嚢まで描いてあるが、ダンテの『神曲』によれば、サタンの陰部は地球の中心であり、いわばアクシス・ムンディ(世界軸)なのである。悪の枢軸たるサタンの王国から怪物が生み出されるとすれば、その大元はたしかにサタンの陰部には違いなかろう。

というわけで、思わず吹き出してしまうような、こういうコミカルな絵も描いているロップスという画家に、ほんの少しだけだが、親近感を抱くようになった。