象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

J. G. ハネカー『エゴイストたち』(萩原貞二郎訳)


訳者の解説によれば、ハネカーという人はアメリカ人で、若くしてパリに渡り、当時のヨーロッパの文芸や音楽を深く学んだ。帰国後はその体験を活かして、評論を書きまくったらしい。しかし、生前の名声とは裏腹に、死後は急速に忘れられた。私が今回、この翻訳書を手に取ったのも、アメリカにおける象徴派の谺として、かろうじて文献の端っこに引っかかっていたのを拾ったのだった。

本書では、広義の象徴派として、ボードレールと、ユイスマンスと、ヴィリエ・ド・リラダンが取り上げられている。ハネカーの筆によって、われわれは象徴派の時代の少し前、それを準備した第二帝政から第三共和政時代のパリを散策することになるのだが、正直いって、新味はあまりなかった。まあ、ボードレールとヴィリエとは、日本でもよく知られていて、翻訳もたくさん出ているから、新味がないのは仕方ない。ユイスマンスについては、私はよく知らなかったのでおもしろく読めたが、これもバルディックの評伝の邦訳が出ている現在、ユイスマンスの愛好家には物足らなく映るのではないか。

ハネカーはユイスマンスの文章を評して「完璧な散文」と折り紙をつけた。この世に完璧な散文なんて、そうそうあるものではない。そしてそれは意外にも、彼の小説の中にではなく、美術批評の中に見出せるという。とにもかくにも『ある人々』(美術論集)だけは読んでおけ、というのが、本書から私が受け取った最大の示唆だ。


James Gibbons Huneker