象徴派の周囲

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アルバン・ベルク『ルル』


これは、ある人々によれば、二十世紀最高のオペラらしい。そういうものに出会えただけでも、ヴェデキントの戯曲を読んだ価値はあった。



主役のクリスティーネ・シェーファーは、シェーンベルクの歌曲などでは「知的なリリックソプラノ」という感じだったが、このオペラでは非常に妖艶で蠱惑的な歌唱と演技を見せている。これは私にはちょっとした衝撃だった。ブルックシャンの大岡昇平も、このルルなら納得するのではないか。脇を固める人々もかなりの熱演で、こういうものが只で見られるとはいい時代になったものだ。

さて、私にとって、オペラは何よりもまず音楽なので、目をつぶって、耳だけで鑑賞に耐えるかどうかが大事なのだが、このベルクの作品はどうだろう。音楽そのものとしておもしろいかどうか。

無調ということで敬遠する向きもあるだろうけど、無調には無調の歌い方があるので、ベルクの無調は私にはけっこう心地よく響く。少なくともシェーンベルクよりはおもしろい。とはいうものの、この作品をヴィジュアルなしで3時間聴き続けることができるか、といわれれば、ちょっと厳しいものがある。

ひとついえるのは、3時間もこの手のものを聴き続けていれば、どんなものでもワーグナーになってしまう。無調であるか、調性があるかは関係ない。集中力が低下してくれば、どんなオペラもワーグナーに聞こえてくるのだ。それはある意味ではワーグナーの偉大さを語るものかもしれない。