象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

厨川白村によるレルベルグの紹介


このブログと並行して細々と続けているレルベルグの翻訳だが、今回の詩篇は自分で訳さずに厨川白村の訳詩を借りることにした。というのも、彼が「詩人ヴァン・レルベルグ」(『小泉先生そのほか』所収)で初めて日本にレルベルグを紹介したときに、この詩を訳しているからで、私にとってはある種の記念碑的なものになっている。


白村の紹介文は短いけれども要を得たもので、だいたいレルベルグに関して必要なことは押さえてある。これだけ知っていれば、レルベルグの詩を読むのに何の不都合もない。彼に関する細々した、プライヴェートなあれやこれやは、作品の読解に邪魔になるだけだ。たとえば、レルベルグはプレイボーイではなかったけれども、それでも何人かの女と不器用なラヴアフェアを繰り返している。しかしそんなことを知っても彼の詩を読むうえでなんのプラスにもならない。

白村は慧眼にも彼とラファエル前派との浅からざる関係を見抜き、さらにキーツ、コールリッジに比較し、また彼の詩の理想的な挿絵画家としてビアズリーをあげている。たしかに、『イヴの歌』にビアズリーが挿絵を描いていたら、どんな本ができあがっただろうか。想像するだけでもわくわくしてくる。

『小泉先生そのほか』にはほかにもイエローブックを論じた文とか、ケルト文芸復興概観だとか、世紀転換期の文芸に関するさまざまな論稿が収められている。大正8年(1919年)の刊行で、もう100年以上前の本だが、同時代的な関心を喚び起こすという点ではいまだに魅力を失っていない。