象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

ジェラール・ド・ネルヴァルのこと


私が最初に読んだフランス語の本は、ネルヴァルの『オーレリア』だった。どうしてそれを選んだかというと、尊敬する某氏が「まったく雲をつかむような、理解不能の書」というふうに紹介していたからで、そういうものなら、初心者にはかえって好都合なのではないか、読んだけどわかりませんでした、という弁解(?)があらかじめ成り立つような本のほうが、初心者には向いているのではないか、と思ったのである。

さて、本(どこにでもあった、いわゆるポッシュ版)を買って読み始めたが、たしかに内容がつかみにくいということはあったものの、そのフランス語の平明さ、明晰さは、私にはむしろ驚きだった。そこには変な癖や気取りはまったく感じられず、あくまでも自己の心の動きや描く対象に忠実な、素朴で嫌味のない文章があるばかりだった。ネルヴァルは、初心者だった私を、血の通ったフランス語に最初に触れさせてくれた大恩人なのである。

ところが、ポッシュ版の二冊(『オーレリア』と『火の娘たち』)にざっと目を通しただけで、いつしかネルヴァルとは疎遠になっていった。途中で中村真一郎の訳をいくつか読んだことを除いては、ほぼ完全に縁が切れたまま、何十年かが過ぎた。くだんの二冊も、いつのまにか手元からなくなっていた。

最近になって象徴派の参考書をいくつか読むうちに、ネルヴァルが大きく取り上げられているのに気がついた。彼は象徴主義に無自覚なままに、その作品によって最高の象徴主義に到達している、というのが大方の意見のようだ。私もこれにまったく異論はない。

と、ここまで書いてとりあえずアップする。あとでいろいろ書き足すつもり。