象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

2022-01-01から1年間の記事一覧

「D.G.ロセッティ作品集」

岩波文庫の一冊。短篇やソネット、それに長詩などを収めた選集で、ふやけたような文語訳を別とすれば全体的によくできている。短篇では「林檎の谷」がよかった。これは象徴派に先駆けた象徴主義小説の小さい見本として立派に通用するだろう。ロゼッティ(本…

小日向定次郎『ダンティ・ロゼッティの研究(地上の愛より天上の契りへ)』

大正14年に出た本で、小日向の本としては容易に手に入るものの一つ。"The Blessed Damozel" "The Staff and Scrip" "Sister Helen" の三篇の詩を訳出、解題している。The Blessed Damozel はドビュッシーの名曲 La Damoiselle Elue のもとになった作品で、作…

石川淳『おまへの敵はおまへだ』

だいぶ前に読みかけて、その台詞廻しのあまりのわざとらしさに辟易し、ずっと積読になっていたもの。それを今回わざわざ取り出して読んでみたのは、このところ古い日本の映画をずっと見てきて、その雰囲気の延長線上にあると思しいこの作品のことがふと頭に…

葉巻と南国の匂い

パイプ、手巻きと進んできたら、次に手を出すべきは葉巻(シガー)だ。これまではその見た目や価格からあまり惹かれることのなかった葉巻だが、やはり喫煙者としてはこれも押さえておく必要があるだろう。というわけで、フィリピン産のエクスプローラーと、…

煙草雑感

今回喫煙を再開してみて気づいたのは、公の場所で煙草を吸えるところがほとんどなくなっていることだ。6年前はこうではなかった。分煙は進んでいたけれどもまだまだ煙草を吸える場所はあった。それが今では……私の場合、落ち着いて煙草を吸える場所といえば車…

ニコチン姫とパイプ嬢

最近ちょっとしたことから5年間の禁煙を打ち切って喫煙者に復帰した。といっても、シガレットに戻るつもりはなく、パイプと手巻き限定だが。シガレットは、よくいわれているように添加物満載で、これが重度の依存症を齎すようなのだ。それは私も身に沁みて知…

生田耕作と象徴主義

生田耕作といえば世間ではシュルレアリスムの研究者として知られている。たしかに彼の訳したブルトンの「第一宣言」はすばらしい。まるでブルトンの霊が生田に憑依して筆記させたかのようだ。しかし私が本当に生田をすごいと思ったのは、『ヴァテック』に寄…

パイプについて

最近本格的にパイプ喫煙を復活させてみたが、なるほどこれは老人ならではの趣味だな、と思った。というのも、まずパイプというのは若い者には絵的に似合わない。それにパイプ喫煙特有のゆるさは、若者の求めるガツンとくる刺戟からは程遠い。またコレクショ…

ふたつの『イット』

「アール・デコ文学双書」の第二回配本『イット』(エリナ・グリン 松本恵子訳)を読む。「イット」の持主である男女(男は無一文から身を起こした実業家、女は没落貴族の令嬢)の恋愛をめぐる心理的駆け引きを中心にした物語。風俗はいちおう1920年代のそれ…

ドビュッシー『ペレアスとメリザンド』

音楽における象徴主義というのはどうも捉えどころがない。他のジャンルであれば、たとえば文学ならマラルメ、美術ならクノップフ、というように、なんとなく象徴主義の代表のようなものが思う浮ぶけれども、音楽となるとなかなかこれというのがない。いや、…

アニタ・ルース『殿方は金髪がお好き』

象徴派の時代に続くのがアール・ヌーヴォーで、それの発展形としてアール・デコというものが考えられ、同時にその中心地はヨーロッパからアメリカへ移る。その後のアメリカ文化はジャズからポップカルチャーへと進むことになるだろう。いっぽうヨーロッパで…

芥川龍之介と象徴主義

先日、初めて閃輝暗点なるものを体験した。視界の端にギザギザの円が見える現象だが、それで思い出したのは、作家の芥川龍之介が短篇「歯車」のなかで、この現象を描いていることだ。彼にとって閃輝暗点はたんなる病理的現象ではなく、「死」を暗示する予兆…