象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

全般

生田耕作と象徴主義

生田耕作といえば世間ではシュルレアリスムの研究者として知られている。たしかに彼の訳したブルトンの「第一宣言」はすばらしい。まるでブルトンの霊が生田に憑依して筆記させたかのようだ。しかし私が本当に生田をすごいと思ったのは、『ヴァテック』に寄…

ハンス・H・ホーフシュテッター『象徴主義と世紀末芸術』

1965年に原著が、1970年に訳書が出たもの(種村季弘訳、美術出版社)。訳者のあとがきによれば、当時は日本でもアール・ヌーヴォーがちょっとした流行だったらしい。著者のホーフシュテッターはアール・ヌーヴォーの研究家でもあるので、本書でもそっち方面…

モーリス・セーヴと象徴主義

辰野隆の『信天翁の眼玉』の最後の方に次のような記述がある。「凡そ文学に於て自覚的に、徹底的に象徴に拠ったのは、恐らくダンテであるだろう。而して仏蘭西に於ては先ず、十六世紀に於けるリヨン派の詩人モオリス・セエヴをその鼻祖とする。彼の詩集『デ…

大岡昇平『ルイズ・ブルックスと「ルル」』

1984年に出た大判の本(中央公論社)。ブルックスと大岡昇平との取り合せはちょっと奇異の感を与えるが、彼は学生のころ京都で『パンドラの箱』を見て、ブルックスの魅力に参ってしまったらしい。それが昭和5年(1930年)のことで、それからほぼ半世紀後の19…

宇佐美斉『象徴主義の光と影』

関西の研究者たちによる共同研究(1997年、ミネルヴァ書房)。21篇の論文が並んでいるが、私の関心に触れてくるものはほとんどない。というのも、ここで取り上げられている画家や文学者は、象徴派プロパーではなく、その周りを固めている守護神のような人々…

『詞華集』

国書刊行会から出た「フランス世紀末文学叢書」の一冊。1985年の刊行だが、以後類書が出ていないので、愛好家にとってはいまだに珍重すべき書物となっている。本書を手に取って、そうか、もうあれから35年にもなるのか、と思う。この本が出たころは、世はい…

ジェラール・ド・ネルヴァルのこと

私が最初に読んだフランス語の本は、ネルヴァルの『オーレリア』だった。どうしてそれを選んだかというと、尊敬する某氏が「まったく雲をつかむような、理解不能の書」というふうに紹介していたからで、そういうものなら、初心者にはかえって好都合なのでは…

アーサー・シモンズ『象徴主義の文学運動』

1899年に初版の出た本書は、1913年(大正2年)に岩野泡鳴によって訳されて、非常な反響を巻き起したらしい。こんにちから見ればおそろしく読みにくい訳だが、この本のいったい何がそれほどまで当時の人々を動かしのか。泡鳴訳を読み続けるのは苦痛なので、冨…

ジョン・ミルナー『象徴派とデカダン派の美術』

1976年にパルコ出版から出たもの。訳者は吉田正俊氏。この本は私には画期的だった。廉価版であり、どこの本屋でも置いてあって、しかも中を開けば珍奇な図版のオンパレードという、他に類を見ない本で、私はこれを立ち読みすることで、象徴派絵画に関する基…

アンリ・ペール『象徴主義文学』

原本は1976年、訳本は1983年の刊行。文庫クセジュにおいて、前に取り上げたシュミット教授の本と入れ替えになったもの。教授のものが、大学での講義のような体裁をもっているとすれば、こっちはもっとくだけた、一般向けの講演といった趣がある。ほとんどが…

アルベール=マリ・シュミット『象徴主義 -- マラルメからシュールレアリスムまで --』

1942年に刊行されたもの。邦訳は1969年(白水社、文庫クセジュ)。これは象徴主義について手軽に要点のみ知りたいと思う人には、まったく役に立たない本だ。いや、ほんとうに、ここには象徴主義について、積極的なことは何一つ書かれていない。著者は、象徴…

象徴について

私は象徴派が好きなので、象徴という言葉にまでなにやら特別な意味合いをもたせたがる傾向があるが、象徴(シンボル)をその語源であるギリシャ語のシュンボロンにまで遡って考えてみると、これはいわゆる「割符」であって、神秘的なものでもなんでもないこ…