象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

2020-01-01から1年間の記事一覧

中島洋一『象徴詩の研究──白秋・露風を中心として──』

昭和57年に桜楓社から出たもの。象徴詩の愛好家にはおもしろく読まれるかと思いきや、なかなかもって取り扱いのむつかしい本ではある。というのも、白秋と露風の詩集すべてについて象徴性(著者のもちいる用語で、要するにサンボリスムのこと)をまんべんな…

北原白秋と三木露風

わが国の象徴詩の歴史においては、有明の次にくるのが白秋と露風だ。このふたりは並び称せられ、いわゆる白露時代を打ち樹てた。私はだいぶ前に露風の四冊の詩集*1にざっと目をとおし、小ぎれいにまとまってはいるが中身のない詩だな、という感想をもった。…

マアテルリンク『モンナ・ヴァンナ』

山内義雄の古い訳で読む(新潮社版)。「解説」によれば、この芝居が日本で上演されたのは明治39年すなわち1906年のことで、原作が出てからまだ4年しか経っておらず、まさに同時代現象だったことがわかる。おそらくめんどくさい部分は端折って、筋書のみ前面…

『詞華集』

国書刊行会から出た「フランス世紀末文学叢書」の一冊。1985年の刊行だが、以後類書が出ていないので、愛好家にとってはいまだに珍重すべき書物となっている。本書を手に取って、そうか、もうあれから35年にもなるのか、と思う。この本が出たころは、世はい…

フローベールの「ヘロヂアス」

サロメの系譜といった内容の本は何冊かあるようで、いずれまとめて読んでみたいが、サロメを扱った文学作品のうち、わりあい早い時期に出たもので、逸することのできないのがフローベールの「ヘロヂアス」だ。この恐るべき物語を、フローベールはいったいど…

日夏耿之介『美の遍路』

『黒衣聖母』の詩人の処女作は意外にも戯曲で、男を漁って一夜の歓楽を尽したのち、翌朝には殺して古井戸に投げ込む残酷なお姫様を主人公にしている。舞台は江戸時代の吉田御守殿で、天樹院尼公の性癖や科白がワイルドのサロメを彷彿させるところに妙味があ…

ジェラール・ド・ネルヴァルのこと

私が最初に読んだフランス語の本は、ネルヴァルの『オーレリア』だった。どうしてそれを選んだかというと、尊敬する某氏が「まったく雲をつかむような、理解不能の書」というふうに紹介していたからで、そういうものなら、初心者にはかえって好都合なのでは…

アーサー・シモンズ『象徴主義の文学運動』

1899年に初版の出た本書は、1913年(大正2年)に岩野泡鳴によって訳されて、非常な反響を巻き起したらしい。こんにちから見ればおそろしく読みにくい訳だが、この本のいったい何がそれほどまで当時の人々を動かしのか。泡鳴訳を読み続けるのは苦痛なので、冨…

ステファン・マラルメ「白鳥のソネット」

けがれなく 健やかにして うるはしき けふのよき日よ わがために 酔ひし翼の ひと打ちに 砕かばくだけ ひと知らで かたく凍りし みづうみに 霧氷降りしき 遁れざる 羽がきのあとの 透き見ゆる その氷をぞいにしへの 白鳥なりし おのが身の けざやかなれど 望…

J. G. ハネカー『エゴイストたち』(萩原貞二郎訳)

訳者の解説によれば、ハネカーという人はアメリカ人で、若くしてパリに渡り、当時のヨーロッパの文芸や音楽を深く学んだ。帰国後はその体験を活かして、評論を書きまくったらしい。しかし、生前の名声とは裏腹に、死後は急速に忘れられた。私が今回、この翻…

象徴派と白樺派

武者小路実篤の『お目出たき人』を読んでいたら、ドイツの画家の名前がいくつか出てきた。Ludwig von Hofmann Max Klinger Otto Greiner Fidusかれらはいずれもドイツ象徴派に属するらしい。私はこれまでドイツの象徴主義についてはあまり考えたことがなかっ…

井村君江『日夏耿之介の世界』

井村君江さんとの出会いは、おそらくこの狷介孤高といわれた詩人の老年を美しく暖かいものにしたんだろう。若くて才能があり、自分の世界に共感を示してくれる女性なんてそうそういるものではない。井村さんが現れたおかげで、詩人はだいぶ「命が延びた」ん…

悪魔とオナニズム

1996年から1997年にかけて開催された「ベルギー象徴主義の巨匠展」の図録を眺めていたら、フェリシアン・ロップスにかなりのページが割かれているのに気がついた。ロップスは、日本でもまとまった画集が出ているくらいで、わりあい人気がある画家だと思うが…

佐藤伸宏『日本近代象徴詩の研究』

これはすばらしい本だ。おかげさまで私にも日本象徴詩の流れがなんとなく理解できた。400ページに近い本だが、一読の、いや再読三読の価値はじゅうぶんある(2005年、翰林書房)。私の理解したかぎりでの、その流れは、下記のごときもの。 新体詩抄(近代詩…

マラルメの新訳と旧訳、つけたり戯訳

岩波文庫の新しいマラルメ詩集。すごい労作だとは思うし、これを出した岩波書店はさすがというべきだが、どうもこれを読んでいると、自分は今までマラルメを過大評価していたのでは? という気になってくる。それはともかくとして、トルストイの芸術論以来、…