象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

映画

ふたつの『イット』

「アール・デコ文学双書」の第二回配本『イット』(エリナ・グリン 松本恵子訳)を読む。「イット」の持主である男女(男は無一文から身を起こした実業家、女は没落貴族の令嬢)の恋愛をめぐる心理的駆け引きを中心にした物語。風俗はいちおう1920年代のそれ…

アニタ・ルース『殿方は金髪がお好き』

象徴派の時代に続くのがアール・ヌーヴォーで、それの発展形としてアール・デコというものが考えられ、同時にその中心地はヨーロッパからアメリカへ移る。その後のアメリカ文化はジャズからポップカルチャーへと進むことになるだろう。いっぽうヨーロッパで…

芥川龍之介と象徴主義

先日、初めて閃輝暗点なるものを体験した。視界の端にギザギザの円が見える現象だが、それで思い出したのは、作家の芥川龍之介が短篇「歯車」のなかで、この現象を描いていることだ。彼にとって閃輝暗点はたんなる病理的現象ではなく、「死」を暗示する予兆…

映画漬けの一ヶ月

前回言及した、グラフィック連作の流れを汲む映画*1を少し見てみようと思って動画サイドを漁っていたら、意外にもおもしろいものがいっぱい出てきて、この12月は私にとって映画月間となった。こんな映画漬けの日々を送ったのは久しぶりのことだ。以下に、こ…

映画における象徴主義

二十世紀中葉における象徴主義のスポークスマンであるホーフシュテッターは、「サンボリスムは現代のまっただなかに屹立している」と高らかに宣言している。そしてサンボリスム精神の現代における正統的な継承者として映画をあげている。これは私としても同…

種村季弘と象徴派

ホーフシュテッターの翻訳者である種村季弘は、映画評論の分野でも活躍した。ところでそのホーフシュテッターは、象徴派の未来を映画のなかに見出している。そういう事情があるので、種村季弘にはもしかしたらホーフシュテッターの理論を応用した、象徴派の…

パプスト『パンドラの箱』

1928年のサイレント映画。この一作で、ルイーズ・ブルックスは映画史上にその名をとどめることになる。 www.youtube.com じっさいのところ、この映画もまたそれなりに忠実に原作を追っているけれども、なんといってもヴェデキントの戯曲が、およそ劇的なおも…

ヴァレリアン・ボロフチク『ルル』

思いがけず袋小路のようになっている「ルル」関連のあれやこれやだが、あまりこういうことにかかずらっているといつまでたっても埒が明かないので、気になるものだけさっさと片付けるとしよう。ボロフチクは私のお気に入りの映画作家で、彼に「ルル」を映画…

山口昌男によるブルックス復興の第一声

大岡昇平によれば、山口昌男が1975年に「朝日新聞」に出した小文が、ルイーズ・ブルックス復興の「戦後の第一声」である。その小文はのちに「スクリーンの中の文化英雄たち」という本に、「女性──この『存在論的他者』」という題のもとに収められた。この小…

大岡昇平『ルイズ・ブルックスと「ルル」』

1984年に出た大判の本(中央公論社)。ブルックスと大岡昇平との取り合せはちょっと奇異の感を与えるが、彼は学生のころ京都で『パンドラの箱』を見て、ブルックスの魅力に参ってしまったらしい。それが昭和5年(1930年)のことで、それからほぼ半世紀後の19…