象徴派の周囲

象徴派に関する雑記、メモ、翻訳、引用など

2019-01-01から1年間の記事一覧

象徴詩の十字路に立って

象徴詩の世界をひとつの都市に見立てた場合、私の現在いる場所は、その中心からだいぶ離れたとある十字路だ。そこから東を見ると、リヒャルト・デーメルがいる。西を見ると、シャルル・ヴァン・レルベルグがいる。南には大手拓次がいる。北には日夏耿之介が…

窪田般彌『詩と象徴』

1977年に刊行されたもの(白水社)。本書で扱われているのは、「広い意味での象徴主義的風土に生きた文学者」たちである。広義の象徴派といってもいいだろう。まず蒲原有明。この人の『有明集』は最低限読んでおかないと、日本の象徴主義について語ることは…

ジョン・ミルナー『象徴派とデカダン派の美術』

1976年にパルコ出版から出たもの。訳者は吉田正俊氏。この本は私には画期的だった。廉価版であり、どこの本屋でも置いてあって、しかも中を開けば珍奇な図版のオンパレードという、他に類を見ない本で、私はこれを立ち読みすることで、象徴派絵画に関する基…

アンリ・ペール『象徴主義文学』

原本は1976年、訳本は1983年の刊行。文庫クセジュにおいて、前に取り上げたシュミット教授の本と入れ替えになったもの。教授のものが、大学での講義のような体裁をもっているとすれば、こっちはもっとくだけた、一般向けの講演といった趣がある。ほとんどが…

窪田般彌『日本の象徴詩人』

1963年(昭和38年)に紀伊国屋新書で出たもの。本書で扱われているのは、上田敏、蒲原有明、北原白秋、三木露風、三富朽葉、萩原朔太郎、日夏耿之介、小林秀雄、吉田一穂の九人。ところで、これらのうち、フランスのサンボリスム精神に忠実な、真の意味での…

アルベール=マリ・シュミット『象徴主義 -- マラルメからシュールレアリスムまで --』

1942年に刊行されたもの。邦訳は1969年(白水社、文庫クセジュ)。これは象徴主義について手軽に要点のみ知りたいと思う人には、まったく役に立たない本だ。いや、ほんとうに、ここには象徴主義について、積極的なことは何一つ書かれていない。著者は、象徴…

ポール・ヴェルレーヌ「憔悴」

広義の頽唐派は象徴派を含む。そしてこの頽唐、デカダンという言葉は、もとは貶下的なものだった。世人は「この唾棄すべきデカダン奴が」という意味合いでこの言葉を使った。しかし、使われたほう、すなわちデカダンたちは、いっこうに痛痒を感じなかったら…

ローデンバック『死都ブリュージュ』

あらすじ妻に死に別れてブリュージュへやってきた男。彼はこの死んだ町に住み、町と同化しつつ衰滅することに、倒錯した癒しを見出している。五年後、彼は亡き妻と瓜二つの女に出会う。女は芝居の踊り子。やがて二人は半同棲生活を送るようになる。男はあく…

カルロス・シュヴァーベ

私が最初に象徴派の絵を知ったのは、高校のころ買ったボードレールの対訳詩集の表紙においてだ。ペンギン版のその本に使われていた絵は、じつに衝撃的だった。この一枚で、Carlos Schwabe という画家の名前は、私の記憶に深く刻みつけられたのである。 たし…

中村隆夫『象徴主義と世紀末世界』

今年(2019年)の8月に出たばかりの本だが、完全な新著というわけではなくて、根幹をなす部分は1998年に出た『象徴主義 モダニズムへの警鐘』をそのまま使ってある。第I部の10章と11章とが、新たに付け加えられた部分で、ページ数でいえば60ページ余り。以下…

象徴派のおもしろさ

私が象徴主義をおもしろく思うのは、それがフランス国内にとどまらずにあちこち伝播した点にある。前にちょっとふれたロシアはいわずもがな、われわれの住む極東の島国にまで、何人かのすぐれた紹介者をまって、この運動は伝わってきた。そして、この地にた…

象徴について

私は象徴派が好きなので、象徴という言葉にまでなにやら特別な意味合いをもたせたがる傾向があるが、象徴(シンボル)をその語源であるギリシャ語のシュンボロンにまで遡って考えてみると、これはいわゆる「割符」であって、神秘的なものでもなんでもないこ…

『六人集と毒の園』再読

象徴主義といえば、詩や絵画が中心で、小説はあまりぱっとしないようだ。象徴主義小説というので、なんとなく人々が思い出すのは、ロダンバックの『死都ブリュージュ』くらいではないか。有名なユイスマンスの『さかしま』は、象徴派を広く一般に知らしめた…

上田敏と堀口大学

鈴木信太郎には上田敏という先達がいる。この上田敏という人が、訳詩においていかに影響力が大きかったかは、当時の本を調べてみればわかる。その一つの例として、矢野目源一がマラルメの「牧神の午後」を訳したものをあげよう。かれの詩集『光の処女』の巻…

はじめに

象徴派、象徴主義というのは、私の人生における重大事件であって、これなくしては、ほとんどアイデンティティそのものが揺らいでしまうのだが、他の人にはなかなか分ってもらえないだろう。といっても、ここで「象徴主義とは何か」というような、大上段にか…